The House 2009年、Kayanoの新しいモデルハウスがOpenします。
僕と渚の家づくりストーリー/ふらんく・ふぁん・でる・かーん
あれもこれも欲しい、そして、格好いい家に住みたい世代に。 第2話
「いやぁー、大変だったんじゃないですか?親父の話に付き合うなんて」
僕たちは百合丘会長の口利きで、百合丘材木店の建築部を訪ねることになった。応対してくれた直太郎さんは、名刺交換を終えた後、少し照れたように口を開いた。名刺には建築部部長とあった。
「いえ、とても参考になりました。図々しくお宅まで拝見させて頂きました」
「そうですってね。凄く喜んでいましたよ。やっと俺のデザインに共感してくれる人が現れたって、興奮しながら電話を寄こしましたから。こんなことは初めてです」
直太郎さんの顔にはまだ照れのようなものが浮かんでいた。
「あの、私たちみたいな者の相談になんて乗って頂けるんでしょうか?」
俯き加減に渚が言葉を発した。
「勿論です。いや、勿論なんて言い方も失礼ですが、私なんかでお力になれることがあれば、何でも」
直太郎さんは僕よりも、5歳か6歳年長に見えた。雰囲気はお洒落なアパレル関係者といったところだが、どこかしら頼れる兄貴という強い芯を感じる人だった。いつか機会があったら、年齢を聞いてみたい。
「そうですか。有難う御座います。百合丘材木店さんて、高級っていうイメージを持っていたので、もしかしたら、相手にして頂けないんじゃないかと思って」
直太郎さんの言葉に安心したのだろう、渚の声にはいつもの張りが戻ってきていた。
「そんな。高級とおっしゃって頂くのは有難いですが、真面目に家づくりを考えていると、ときにはそういうイメージを持たれることがあるのかも知れませんね。私はどちらかと言えば、デザインの方が専門なのでついやり過ぎてしまうことがあるんです。それを、うちの設計や工事のスタッフがきちんと形にしてくれます。ですので、うちはあんまり数は出来ないんです。出来ないと言うよりも、やらないと言った方が正確かも知れません」
「そうなんですか。建築中の建物を目にする機会が多いですけど。ホームページも素敵でした」
「有難うございます。うちのビジネススケールは、年間30棟を目安に考えて下さい。お二人がその30分の1になって頂けると嬉しいのですが」
そう言うと、直太郎さんは柔らかい笑みを顔に浮かべた。
「家づくりの流れってどういうものなんですか?」
「そうですね。本当はここに営業のスタッフがいればいいんですけど、全員出払ってしまっていまして、すみません」
直太郎さんがそう言って頭を下げた。
「いえいえ、とんでもないです。こちらから無理やり押しかけて来たんですから」
ミーティングルームの扉がノックされて、パンツスーツを見事に着こなした女性がお茶を出してくれた。僕と渚はお礼を言って、女性に向って頭を下げた。女性の振る舞いは、今まで仕事の打ち合わせで出向いた先の会社で受けたお茶に比べると、数段上をいくものだった。『人の振り見て我が振り直せ』とはよく言ったものだ。早速、週明けの社内ミーティングでの議題にしよう。
「まずは敷地を見させて頂くことが最初になります。それから、お二人のご希望とご予算の計画を立ててプランニングをしていきます。プランニングをする前に、お二人のことをよく教えて頂かなければいけません。お二人がどういう個性の持ち主で、どういった暮らしをご提案したらよいのかを、細かくお聞かせ頂くためのお時間を少し長めに頂戴することになります」
「あの、百合丘さん、いえ、会長さんにもお話ししたんですけど、自分たちでもそれがなかなか掴めていないようなところがあるんです。お互いに好みも違うし」
僕がそう言うと、直太郎さんが大きく頷いた。
「そうですよね。もしかすると、私もお手上げになるかも知れません」
直太郎さんが小さく万歳をする格好をしながら、笑い声を上げた。
「どうしたらいいんでしょう?」
僕と渚がほぼ同時に、同じ言葉を口にした。
「温かいうちにどうぞ」
そう言って、直太郎さんがテーブルの上に置かれた紅茶を勧めてくれた。カップからは百合丘邸で頂いたものとは少し違う香りが漂っていた。
「美味しい紅茶ですね。この間、ご実家で頂いたものと同じブランドのものですか?」
渚の言葉につられて、僕もカップに手を伸ばした。勿論、ソーサーも一緒に手に取った。
「よくお気づきになりましたね。ロンネフェルトっていう、ドイツの紅茶メーカーのものです。母親がこっていましてね。会社でもこれを使えって」
「ドイツ?ですか」
「ええ。紅茶って言ったら、イギリスって思うでしょ?ヨーロッパでも、星を沢山取るようなホテルだとロンネフェルトを使うところが多いんですって。あっそうだ、ドバイの最高級ホテル・・・何て言ったかな・・・」
「バージュ・アル・アラブ?」
「そうそう、よく知っていますね」
「いえ、去年取材で行って来たんです。あまりにも高くて宿泊は出来ませんでしたけど」
去年、ある雑誌のホテル特集を請け負ったときに、ドバイへ出掛けたことがあった。僕はそのときに見掛けたアフタヌーン・ティー・パーティーを特集記事に選んで、それがトップ記事として採用された。
「そこのホテルの紅茶もこのロンネフェルトなんですって」
「そうなんですか」
「私も母親の影響で少し紅茶について勉強したんですけどね。知れば知るほど奥が深くって、途中で投げ出しちゃいました」
「ワインと同じですね」
「そうなんです。出されたものに対して、あーだ、こーだって言っている方が楽だなって。ワインにソムリエがいるように、紅茶にもティーマスターという専門の資格があるんですよ。さっきこのお茶を運んで来てくれた彼女がそうです」
そう言って、直太郎さんは頷きながらカップを手に取った。
「そうなんですか?」
「はい。色々な専門知識と紅茶を淹れる技術の所有者なんです」
「凄いな」
僕は頭に浮かんだ素朴な感想を口にした。
「アートディレクターも同じですよ。私にしたら、アートなんていう世界は別次元の話です」
「そんな。僕にしたら設計士こそ、別世界です」
「あはっ。餅は餅屋ですね。そうだ、まずはうちの建物を知って頂くことから始めてみませんか?」
そう言うと、直太郎さんがカップをソーサーの上へと静かに戻した。
「建物を知る?」
「ええ、今、建てさせて頂いている現場は、えーっと、4現場かな。もし、来週お時間があるようでしたら一緒に見学に回ってみません?そこから色々見えてくるかも知れません」
「いいんですか?」
「是非。私どもを知って頂きたいですし、お二人のことももっと知りたいです。勿論、お施主様には許可を頂きますので大丈夫ですよ。それと実際に私どもが建てさせて頂いたお客様の声を聞かせて頂く機会も作りますよ。その方がずっと家づくりにリアリティーが増しますしね」
「有難うございます」
僕と渚はまた同じ言葉を口にした。
翌週、僕は週末に入れた雑誌編集者との打ち合わせのワークタイムを消化するために、木曜日にフレックスを取った。そして、その日に直太郎さんが現場を案内してくれるという運びになった。
「建築途中の現場を見るなんて初めてね」
直太郎さんとの待ち合わせの場所へと向かうチンクエチェントの中で渚が口を開いた。
「そうだね。なかなか出来ない体験だよね」
渚の言うとおり、建築途中の現場を見かけることはあっても、その中に入るなんてことは今まで経験したことがないことだった。
待ち合わせの場所に選んだ公園の前に、直太郎さんの姿を見つけた。僕は直太郎さんの脇に停めてあったR2に並べるようにチンクエチェントを停めた。
「こんにちは」
車を降りると直太郎さんが近付いて来た。
「いい天気になりましたね」
「そうですね。現場日和です」
「現場日和?」
「あっ、私が勝手にそう呼んでいるんですけどね。現場に向かう日に天気がいいと気分が良くなります」
「なるほど」
「では、今日は3現場を回ってみましょう。それぞれ工事の進行具合の違う現場をご案内しますので、色々と楽しんで頂けると思いますよ」
「はい、有難うございます」
「早速、出発しましょう。私の後について来て貰えますか?」
直太郎さんはそう言って、R2を指差した。
「分かりました」
僕は直太郎さんに返事をして、車に乗り込んだ。直太郎さんも車に乗り込む。スモールカーが僕と直太郎さんの共通点になった。
公園を出発してから15分ほど走ると、1つ目の現場に到着した。現場は基礎工事中で、オレンジ色のヘルメットを被った職人さんが、ヘラを片手に基礎の上部を丁寧に均していた。
「まずは家にとってとても重要な、基礎を見て頂こうと思います」
車を降りた直太郎さんが、職人さんと挨拶を交わして、現場を見つめる僕と渚の横に立った。
「これで何坪くらいの家なんですか?」
渚が口を開く。
「1階の面積で22坪です」
「22坪?」
「ええ」
「22坪と言うと、44畳ですよね?」
「小さく見えますか?」
「はい、何となく」
渚がそう言うと、直太郎さんが口元を緩めた。
「ほとんどの方が、この段階で現場を見ると小さく感じてしまうものなんですよ。それは、壁という対象物がないからなんですね。感覚がスケール感を把握出来ないんでしょうね。もっとも、自分のこととして基礎を見るような機会は、一生にそう何度もないことでしょうから仕方のないことです」
直太郎さんはそう言うと、図面を手渡してくれた。
「これがこの建物の図面です」
僕の手元を渚も覗き込んでくる。1階の図面には、広めのリビングと洗濯室、家事コーナーまである。
「こんなに広いお宅なんですね」
図面から目を離した渚が直太郎さんに向って口を開いた。
「そうですね。22坪と言ったら、結構広く作れますよね。近くで見てみましょうか」
僕と渚は直太郎さんに続いて、敷地の中へと足を進めた。
「これがうちで採用している外張り断熱工法の基礎です」
直太郎さんはそう言うと、基礎の外側に貼られている白い板状のパネルに手を触れた。
「外張り断熱工法?」
「聞いたことあるわ。コマーシャルでどこかの住宅メーカーがPRしていたような・・・」
僕が直太郎さんの言葉に首を傾げていると、渚がそれに被せるように口を開いた。
「そうですね。今、CMで結構流れていますよね」
「どういう工法なんですか?」
「ええ、言葉通りの工法になるんですが、文字通り外に断熱材を張るんですね。例えばこちら」
僕と渚の視線は直太郎さんが触れている基礎へと向いた。
「外張り断熱工法はここ10年くらいで採用数が増えている工法なんです。それでも、まだまだ普及率は低いんですが、このように基礎を作るコンクリートの外に断熱材を張ります。勿論、基礎の下にもこれと同じ断熱材が敷かれています」
「外に張る?」
「はい、魔法瓶をイメージして頂くといいかも知れません。建物全体を断熱材ですっぽりと包んでしまう工法が外張り断熱工法です」
「と言うことは、上に出来る建物も?」
「そうですね。上から下まで、屋根から基礎の下まですっぽりと包んでしまうんです。そちらの方は次にご案内する現場でご覧下さい」
「なんか、温かそうっ!」
直太郎さんの言葉に渚が大きく相槌をうった。
「正解です」
渚の反応に直太郎さんは笑みを浮かべた。
「技術面的な視点から言うと、熱橋を作らないことが、断熱性能のアップに繋がるんですね。熱橋と言うのは、外からの熱が建物の中に伝わる、或いはその逆のことを言うのですが、それを可能な限り遮断することで、建物の断熱性能は格段に上がります」
「それで魔法瓶」
「ええ、考え方は似ていますよね。このコンクリートも熱なんて通さないように思われるかも知れませんが、外気が冷えれば、それに比例してコンクリートも冷えていきます。そして、その冷えた熱が床下を冷やします。そして、冷えた床下が、建物の温度も下げる。熱橋をどこかで遮断しないと、そのようなスパイラルが出来てしまうんですね。この街のように雪が降れば尚更です」
「なるほど」
「ですので、うちではこの工法を採用しています」
そう言って、直太郎さんはもう一度基礎に張られている断熱材を撫でた。その手つきは、僕が猫の頭を撫でるときよりも、ずっと優しい感じのするものだった。
「あの、つまんない質問をしてもいいですか?」
僕は直太郎さんの手つきをずっと眺めていたいという衝動を抑え込むように言葉を口にした。しゃがんでいた直太郎さんが、僕の方へと振り向きながら、立ち上がった。
「コンクリートの強さとか、基礎を作るなら季節はいつ頃がいいということってあるんですか?」
僕の言葉を聞き終えると、直太郎さんは表情を崩した。
「いいところにお気づきになられましたね。あまりに専門的になり過ぎるといけないので、ご説明しようかどうか迷っていたところでした」
「すみません」
立ち上がった直太郎さんに向って僕は頭を下げた。
「いえいえ。クエスチョンマークに感じるところは、何でも聞いて頂いた方が有難いです」
「有難うございます」
「これからも、お互いにそうしましょう。お二人の家づくりが成功するように、私が疑問に思ったことは何でもお聞かせ頂きたいと思います。お二人も是非そうして下さい」
そう言って、直太郎さんがまた表情を崩した。
「では、コンクリートについてですが、コンクリートにも強度というものがあります。書類などの証明書は後ほどご覧頂くとして・・・、簡単にご説明すると、うちで扱っているコンクリートの強度は30というものを使います。一般的に木造住宅の場合は強度20くらいのコンクリートを使うことが多いのですが、うちが使用するコンクリートはその1.5倍の強度が出る物を使っています。やっぱり基礎は強い方がいいですからね」
「強度30?」
初めて耳にする数字だった。もっとも、僕はコンクリートに強度があることすら知らなかったのだ。
「はい、こちらは出荷証明などの書類を見て頂いた方が分かりやすいですよね。あとは、基礎の高さでしょうか。こちらもGL、つまり地面から45㎝の高さが一般的ですが、うちは地面から60㎝を基準としています。もちろん、立地条件によっては45㎝にする場合もありますが、基本的には60㎝を採用します」
そう言って、直太郎さんはポケットから取り出したスケールを基礎の上部に合わせた。確かに、隣に建っている家よりも基礎が高い。
「高い方がいいんですか?」
僕はまた、素朴な疑問を口にしていた。
「えーと、こちらは違う意味での安全面を考慮して・・・という側面が強いですね。最近多いですよね、集中豪雨。これからも環境の変化で何が起こるか予測がつきません。床下、床上浸水なんてことから建物を守るための配慮とお考え下さい。建物内部への水分の侵入は、想像以上にダメージを残しますから」
「そうか。そういうところへの配慮も必要なんですね」
「ええ、構造の安全面には過度なくらいが丁度いいと思っています。では、次の現場へ行きましょうか」
直太郎さんの言葉に、僕と渚は黙って頷いた。
直太郎さんのR2の後を追って、僕たちは再びチンクエチェントに乗り込んだ。今度の進路は市街地の方向だった。
「直太郎さんて、家を愛しているって感じよね」
車を走らせ始めると、渚は僕が思っていたことと同じ感想を口にした。市街地へと向かう幹線道路は比較的空いていて、空気は澄んだように綺麗だった。遠くに、山の綾線がはっきりと見える。
「僕も同じことを感じたよ。ひとつひとつを大切にしているって感じだよね」
「うん。何でも聞いていいって言ってたね」
「そうだね。直太郎さんて、聞きやすい雰囲気じゃない?」
「それは言えるわね」
渚はそう言うと、サイドウインドーを少しだけ下ろした。少しだけ冷たくて、そして澄んだ空気が車内を満たした。
「わ~、凄い」
車を降りるなり、渚が大きな声を上げた。僕も渚に倣って建物を見上げた。建築途中の建物からは、何か迫力のようなものを感じた。
「こちらは着工後2ヶ月の建物です」
呆気に取られている僕と渚の隣に立った直太郎さんが口を開いた。足場の上で作業をしていた大工さんたちが、僕たちの姿を見止めて、次々と挨拶の言葉を口にしてくれた。大工さんたちのそれは、少し無骨なものだったが温かさを感じるものだった。僕と渚はそれぞれに頭を下げて答えた。
「今、大工さんたちが行っている作業が、断熱材を張る作業です」
「断熱材」
「建物の構造部分、つまり、柱とか梁も、基礎と同様に断熱材ですっぽりと包んでしまうんですね」
そう言って、直太郎さんが両掌で空気を包み込むような仕草を見せた。
「そっか。上から下まで、包み込むってことですもんね」
渚が直太郎さんの言葉に反応をした。
「そうです」
「あっ。と言うことは、床下も屋根裏も外からの影響を受けないということか・・・」
渚が握った拳で掌の上を叩いた。
「そうです。それが外張り断熱工法の最大のメリットです」
直太郎さんが渚に向って大きく頷いた。
「例えば、冬ですよね。0度近くになった外気が、建物の内部に及ぼす影響を極力カットしようとしている工法なんです。要するに、温めた空気を冷めにくくする」
「魔法瓶っ!」
「ご名答」
渚の言葉に直太郎さんが首を傾げながら、表情を崩した。
「それでは中をご案内しますね。すみませんが、これをお願いします」
直太郎さんは手にしていた二つのヘルメットを僕と渚に手渡してくれた。それから、1時間近く建物の中の柱や使われている金物など、細かな部分まで直太郎さんは説明をしてくれた。僕と渚は直太郎さんの話を聞きながら、疑問に思ったことを次々と口にした。直太郎さんの話はどれも新鮮なもので、今まで知らなかった、そして、案内を受けなければ知ることが出来なかったと思うようなことまで知ることが出来た。
第3話へ続く。