The House 2009年、Kayanoの新しいモデルハウスがOpenします。
僕と渚の家づくりストーリー/ふらんく・ふぁん・でる・かーん
あれもこれも欲しい、そして、格好いい家に住みたい世代に。 第3話
「ここに建つのね~」僕と渚は建築予定地の前に立っていた。僕は百合丘材木店さんの建築部部長の直太郎さんから貰ったプランの描かれた図面を広げてみた。今日の午前中に直太郎さんからプレゼンを受けて、僕と渚はそのままここへとやって来たのだった。僕も渚も興奮が抑えられないという気持ちだった。
「そうだね。これがここに建つんだよね」
僕はもう一度プランに目を落とした。
2週間前、僕と渚は直太郎さんとの打ち合わせのために百合丘材木店さんの事務所を訪れた。
『これからお二人のためのプランニングを行うために、今のお二人の暮らし、そして、これからの暮らしへの理想などをお聞かせ下さい』
そう言った直太郎さんの手元には『暮らしインタビュー』と書かれたシートが広がっていた。そして、直太郎さんから聞かれたことは、まさに僕と渚の暮らしのインタビューだった。朝起きる場面から始まって、出勤前の行動、帰宅後の行動、休日の過ごし方からバスタイムまで、生活の細かい部分まで僕と渚は直太郎さんの質問に答えた。中には考えて思い出さないと答えられないような質問もあった。それだけ、直太郎さんのインタビューは細かかったし、僕たちが気づいていないような部分までをも気づかせてくれるものだった。そして、その質問のひとつひとつが家づくりと深く密着するものであることを知った。以前、直太郎さんが言っていた、『生活をコーディネートする』とは、このことだったのだ。
それにしても、僕たちの取り留めのない生活の様子をカタチにするなんて凄い。
「この辺りが玄関かしらね?」
渚はそう言って敷地の中に入って、両手を広げてこちらに向き返った。
「えーとね」
僕は手にしたプランに目を落としながら、渚の言葉に曖昧に答えた。
「そうだね。この辺りに車寄せがあって、この辺から玄関じゃないかな」
僕も渚につられて敷地に足を踏み入れた。プランには僕の愛車チンクエチェントが描かれていた。
「そして、ここからが玄関ホールで、リビングに向かうのよね」
渚が踊るようにして、架空の家に入っていく。もしかしたら、渚の頭には僕よりもしっかりと、プランがインプットされているのかも知れない。
「ここが図書館か」
僕は渚を無視して、もう一度プランを見つめた。プランには『ライブラリー』と称して、小さな図書館が描かれていた。そして、お陽様の下で本を読むことが出来るベンチも。自然と頬が緩んだ。そのベンチで本を読む自分を想像しただけでもワクワクしてくる。
「なにニヤニヤしてんのよ」
いつの間にか近づいて来た渚が、僕の手元のプランをのぞき込んできた。
「いや、ここさ」
僕はそう言って、『ライブラリー』と書かれた場所を指差した。
「嬉しそうね」
「渚は?」
「私はここかな」
渚が指差した場所は、玄関から眺めることが出来る位置にある、リビングの一角にある壁だった。直太郎さんはその壁に『樹を飾る』と言っていた。僕はページを何枚か捲って、直太郎さんが描いてくれたスケッチを見開いた。
「素敵よね。『抽象画のように樹を飾る』って言っていたわ」
「抽象画のように樹を飾る、かー」
「何?」
「いや、それだけでキャッチになるなー、って」
「あら、こんなときにまで仕事の話?」
僕は渚の言葉に頭を掻きながら、もう一度プランを見つめ直した。
アパートに帰ってからも、渚はプランを食い入るように見つめていた。僕はソファに横になって、読みかけの小説を開いた。本は最近になって、再発刊されたジャック・ケルアックの『オン・ザ・ロード』だった。僕はケルアックの本の全てを学生時代に読破していた。それでも、新しく装丁がされた本を書店で見つけたときは、嬉しくなってつい買ってしまったのだった。今読み返してみると、あの頃には感じなかった熱を感じた。そもそも、僕はビート・ジェネレーションというものが、どういうものかなんて理解もしないで、ケルアックに向っていたのだ。熱を感じるようになった分だけ、僕も年齢を重ねたということだろうか。
「ねー」
頭の中で渚の声が響く。
「ちょっと~」
今度は体まで揺らされた。それで、僕は読書の途中で眠ってしまっていたことに気がついた。薄らと目を開けると、渚が猫を抱き抱えて、僕の上に投げ下ろすところだった。
「待ったっ。何っ?」
僕はソファから上体を起こして、猫のボディーアタックを交わした。ラグの上に本が転がり落ちる。
「どうしたの?」
僕は渚の凶器と化そうとしていた猫を、抱き抱えた。
「お腹すいた」
「えっ」
「だ~か~ら~。お腹すいたの」
僕は転げ落ちた本をテーブルの上に戻して、目を擦った。そう言えば、今日は僕が夕食を作る当番の日だった。気持ちよく寝てたんだから、代わってくれてもいいじゃん・・・僕は喉まで出かかった言葉を強引に飲み込んだ。口にしたら間違いなく僕が負ける。
「ちょっと待ってください」
僕は顔の前に抱え上げた猫の手を頭の上にのせて、「てへへ」のポーズを取らせた。渚の顔がむっとしたものに変わる。それを見て、猫が僕の手の中から逃げ出した。動物の本能って凄い。僕も猫を追うようにして、キッチンへと向かった。
今晩のメニューは中華丼にした。中華料理が僕の得意分野だったし、冷蔵庫の中には余った野菜と豚肉が入っていた。本当は必要なうずらの卵は、食器棚兼食品庫の中には買い置きが見当たらなかった。中華丼は最後の仕上げが肝心な料理だった。とろみを出す水溶き片栗粉は、火を止めてから交ぜ加える。そして、もう一度火にかける。そうすると、しっかりとしたとろみが餡に出るのだ。
「お待たせ」
僕はテーブルの上に、中華丼とセロリのスープを運んだ。スープからはセロリ独特の香りが立ちこめてきて、食欲をそそられる。冷蔵庫の中からミネラルウォーターのペットボトルを取り出していると、『いただきます』と言う渚の声が聞こえてきた。渚は余程、空腹だったらしい。僕が2つのグラスとペットボトルをテーブルの上に置くと、渚が満面の笑みを返してきた。中華丼が渚のご機嫌を直してくれたらしい。僕はもう一度キッチンへと引き返した。本棚の上に置いてある、キャットフードの袋を下ろすと、すでに猫がトレイの前でスタンバイをしていた。『腹減った』猫の目もやっぱりそれだった。
「はいはい、どうせ僕は飯炊き夫ですよ~」
僕がそう言いながらトレイの中に餌を入れて上げると、猫は勢いよく食べ始めた。袋をもとの位置へと戻して、リビングへと向かった。ようやく、僕の食事の番だった。
「美味しいわ」
すっかりとご機嫌を取り戻した渚がスープを口へと運んでいた。
「そう?」
僕も食事に取りかかる。
「プラン見たの?」
僕は渚の横に置いてあった図面を指差した。
「うん。見れば見るほど惹きこまれちゃうわね」
「どこか、気になるところは?」
「そうね~」
渚が首を傾げながら、天井を見上げた。
「ない。ってかさ、私たちのことを凄く良く捉えていると思わない?」
「確かに」
「そっちは、このライブラリーで本を読む。私は中庭でぼーっとする」
「そうだね。直太郎さんも言ってたけど、外観の横ラインが綺麗だよね。車寄せも便利だと思うな」
渚があっと言う間に、中華丼を平らげて残りのスープに取りかかった。猫の方へと目を向けると、一度だけ目を合わせて食べるのを止めた猫がまた食事を始めた。
「でもさ、よくあの話の内容でこんな素敵なカタチを作り上げるわよね」
スープを飲み干した渚が言った。
「それは僕もそう思った。僕たちの仕事とは似て異なりだよね」
僕はそう言って、中華丼を一気にかきこんだ。
「うん。私たちってどちらかと言えば、平面のデザインが多いじゃない?家って縦横斜めだものね。それに、人の生活を形にするって想像出来ないわ。ご馳走様でした」
渚がそう言って、空になった食器に掌を合わせた。僕も中華丼の最後の仕上げに取りかかった。勢い、スープも飲み干した。
「ここ、何て言う樹を使うって言ってたっけ?」
重ねた食器をテーブルの端に寄せてから、渚がプランが描かれた図面を広げた。
「パオロッサ、ほら、ここに書いてある」
僕は図面を指差した。
「パオロッサ?」
「南アフリカの樹だって言ってたね。後でネットで調べてみたら?」
「そうね。その樹が絵みたいに飾られるのね、素敵」
食事前の不機嫌が嘘のように、渚が表情を緩めた。直太郎さんと中華丼、様様だ。
満たされたお腹が眠気を運んできた。僕は食器をシンクへと運んで、素早く後片付けを終わらせた。食事当番が食器の後片付けをするのも、僕と渚のルールだった。リビングへ目を向けると、渚はテーブルの上に開いた図面をじっと見つめていた。どうやら、渚は相当プランを気に入ったようだった。
「以上が、地盤調査の結果になります」
僕と渚は直太郎さんとの打ち合わせのために、百合丘材木店さんの事務所へとやって来ていた。僕たちは先週の打ち合わせのときに、建築予定地の地盤調査をお願いしていたのだ。それは家を建てた先輩ADからのアドバイスでもあった。
『どんなに丈夫な家を建てても、地盤が悪ければ意味がないからな』
先輩は僕にそう言った。確かに僕は、地盤のことまでは考えてはいなかった。
「こういうの初めて見ました」
直太郎さんに向って、渚がそう言った。
「そうですよね。今回のデータからですと、地中5mに支持地盤があります。ですので、ここに書いてある通り、RES-P工法と言う地盤改良工事さえしておけば地盤に対しての工事は万全でしょう。地盤保証保険にも加入されることをお勧めします」
「でも安心しました。これで地盤は大丈夫ですもんね」
「そうですね。昔は、と言っても、15年くらい前までは、地盤に対してあまり厳密な法律も工事もされていないことの方が多かったんです。でも、法律が強化されるということは、お客様にとっての安心につながりますので、法の強化はいいことだと私は思います」
直太郎さんは優しい表情のまま言葉を発した。
「この他に、こういった工事と言うか、法律みたいなものはあるんですか?」
「そうですね・・・確認申請を頂くというのは当然ですが、うちでは住宅瑕疵保証保険に加入しています。基礎工事の配筋が終わった段階で、その財団法人の検査員のチェックを受けます。それが第一段階。そして、構造躯体が建ち上がった段階でもう一度検査を受けます。もちろん、自社チェックもしますが、第3者からチェックを受けて保証を貰う。それが大切だと思っています」
「なんかCMで見たことあります」
「そうですね。今は民間でもそういった団体が増えていますね」
「家を建てるって大変なんですね」
「お二人の財産となるものですからね。あとは構造計算です。一般的には平屋と2階建は構造計算は義務付けられていませんが、うちは全ての建物に構造計算を行います。これは、専門の者からご説明差し上げますね」
「お願いします」
僕と渚は同時に口を開いた。
「それではプランのお話に入りましょう。何か気になった部分を教えて下さい」
僕と渚は直太郎さんのその言葉に口を噤んでしまった。直太郎さんが不思議そうな表情を浮かべていた。
「あの・・・」
渚が口を開いた。
「気になるところありません。というか、凄く気に入りました」
「有難うございます」
ほっとしたように、直太郎さんが頭を下げた。
「良かった~。何か根本的にお気に召さなかったかと思いました」
「あっ、すみません。気になるところがないっていうのも失礼かな、なんて思っていたもので」
僕は事務所へ伺う前の、車中で渚と話し合っていたことを口にした。僕と渚の仕事上、何も反応がないということが一番困ることだったからだった。
「いえいえ、頑張った甲斐がありました。でも、何でもおっしゃって下さいね」
「あの、これからどんな風に家づくりは進んでいくんですか?」
「はい。プランがお気に召して頂けたのであれば、図面制作の作業に入ります。その前に、ご契約書を交わして頂くことになりますが、あの、大変申し上げにくいのですが、お二人のご契約には会長が立ち会いたいと申していまいして・・・」
「えっ!」
「お二人のことを大変気にしているようなところがありましてね。ほとんど、毎日電話が来ます」
直太郎さんはそう言って、少し照れたような表情を浮かべた。
「そうなんですか。こちらもご挨拶にお伺いしなければいけないと、話していたところなんです。ですから、こちらからお伺いさせて頂きたいとお伝え頂けますでしょうか」
「はい、伝えますが・・・多分、向こうから来ると思います」
直太郎さんの顔には、また困ったような表情が浮かんでいた。それから、僕と渚は直太郎さんと音楽の話や映画の話などをして、事務所を後にした。
第4話へ続く。
