The House 2009年、Kayanoの新しいモデルハウスがOpenします。
僕と渚の家づくりストーリー/ふらんく・ふぁん・でる・かーん
あれもこれも欲しい、そして、格好いい家に住みたい世代に。 最終話
休日は現場へと行くことが習慣になった。休日になると朝早く目が覚めてしまうのだ。小学校の頃、遠足とか運動会の前日がそうだった。渚はほとんど毎日現場へと行っているようだった。帰るたびにプリントアウトされた写真が、ソファテーブルの上に置かれていた。僕もそれを見るのが好きだった。僕と渚の家づくりは、百合丘材木店さんの松崎さんが現場監督で、棟梁は伊藤さんという若い大工さんが勤めてくれていた。伊藤さんは渚の質問に、よく答えてくれているようだったが、僕はそれが迷惑になっていないか少し心配だった。渚は思ったことを何でも口にする。
基礎工事が終わって、上棟を迎えると、これまで図面で打合せをしてきた建物のイメージが掴めるようになってきた。イメージと現物が重なった瞬間、例え難い嬉しさを覚えた。現場に香る樹の香りも心地いい。
「では、スイッチの位置を確認して頂きますね」
長嶋さんの声で、完成した姿をイメージしていた僕の頭は現実に戻された。やっぱり僕はライブラリーの前に立っていた。
「はい、すみません」
僕と渚は図面を手にしている長嶋さんの傍へと近寄った。今日は配線の確認をする日だった。建物は外周部が塞がれていて、サッシも取り付けられていた。一部フローリングも貼られているところもあったが、そこは養生シートで覆われていた。僕と渚はフローリングにナラの樹を選んだ。それは、赤味のあるパオロッサという銘木を引き立たせるために、落ち着いた色の樹種を選んだつもりでいた。直太郎さんもそれに賛同をしてくれた。
「それでは玄関から始めましょう」
長嶋さんはそう言って、玄関の方へと歩いていく。僕と渚はそれに続いた。
「では、ホールのスイッチからですね」
長嶋さんの言葉に、松崎さんがポケットから取り出したスケールを伸ばした。
「玄関ホールとライブラリーの電灯のスイッチはこの位置です。ちょっと確認してみて貰えますか?」
長嶋さんはそう言うと、松崎さんが伸ばしたスケールに手を翳して、スイッチの位置を示してくれた。僕と渚は玄関ホールに立って、スイッチやコンセントが取り付けられる予定の位置に手を伸ばした。スイッチは丁度いい高さにあった。
「OKです」
「はい」
僕と渚が言うと、長嶋さんが小さく頷いて、手にしていた図面にペンを走らせた。
1時間ほどを掛けて、建物全部のスイッチの位置を確認した。建物はこれから仕上げ工事に入るのだという。
「どこか気になるところはありますか?」
リビングへと戻ると、長嶋さんが口を開いた。
「僕はないです」
僕はそう答えて、渚の方へと目を向けた。
「私もないです」
渚が口を開く。
「気になることがあったら何でもおっしゃって下さいね」
長嶋さんはそう言って、僕と渚へ交互に目を向けた。
「パオロッサはいつ頃取り付けられるんですか?」
渚がリビングの壁へと視線を向けた。
「あと、2週間といったところでしょうか。取り付けは仕上げの最後の最後になります」
答えたのは松崎さんだった。
「楽しみ~」
「私も楽しみにしています」
長嶋さんが渚の横に立ち位置を変えて、パオロッサが飾られる壁面に目を向けた。2人はすっかりと仲良くなっていた。どうやら、家が建った後の飲み会は現実になりそうだった。僕は2人からそっと離れるようにして、リビングを後にした。そのときが来たら僕は料理長に徹しよう。僕のお酒の量もペースも渚に遠く及ばない。それに、長嶋さんも強そうだ。九州生まれという響きだけで、僕はびびっていた。
外に出ると街路樹の梅の木に、小さなピンク色の花が咲いていた。先週、来たときにはまだ花は咲いていなかった。春はもう間近だった。
仕上げ工事が進むにつれて、家は表情を変えた。養生シートも剥がされている場所が多くなって、どんどん今まで見えなかった材料が姿を見せ始めた。ナラの床材は思っていた以上に家に、そして、僕と渚の好みに合っていた。直太郎さんが手放しで勧めてくれた理由もそれで分かった。今日は僕一人で現場に足を運んでいた。仕事で近くまで来たついでに寄ってみたのだった。現場には棟梁の伊藤さんがいて、ウッドデッキの工事を行っていた。
「こんにちは」
「どーも」
僕と伊藤棟梁が交わす挨拶はいつもこんな感じだった。
「お仕事の途中ですか?」
伊藤さんは僕の姿を見止めると、手にしていた電動ドライバーを下ろして、腰にぶら下げていたタオルで顔を拭った。
「すみません、何か飲み物でも買ってくれば良かったですね」
「いえいえ、お気づかいないように」
「いい天気になりましたね」
僕はそう言って、空を見上げた。空は澄み渡っていて、青空をバックにゆっくりと流されていく雲がくっきりと見えた。伊藤棟梁は半袖姿だった。
「お引き渡し、もうすぐですね」
「楽しみです。でも、工事が終わってしまうのも少し寂しい気もします」
僕は正直な気持ちを口にしていた。この3ヶ月ちょっとの間、毎週、ここへ来ることが楽しみになっていたのだ。
「そんな。早くいい家に住んで頂きたい」
伊藤棟梁はそう言って、口許を緩めた。
「そうですよね」
僕も伊藤棟梁につられて声を上げて笑った。
「いい家になったね~」
「そうですか」
「いや、自分で言うのもあれだけど、図面からお二人の空気感が伝わってきましたよ」
伊藤棟梁が作業途中のウッドデッキに腰を下ろした。それに倣って僕も棟梁の隣に腰を下ろす。やっぱり、飲み物を買ってくるべきだった。
「色々我がまま言っちゃって」
「その方がいい家になりますよ。我がまま言われるために、プロがいるんだから」
「有難うございます」
僕は伊藤棟梁に向って、小さく頭を下げた。
「こんにちは~」
玄関の方から渚の大きな声が聞こえてきた。僕と伊藤棟梁が振り返ると、現場用のスリッパを履いた渚がリビングから入って来るのが見えた。そして、渚の手には飲み物が入ったコンビニの袋がぶら下がっていた。
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