トップページに戻る

The House 2009年、Kayanoの新しいモデルハウスがOpenします。

僕と渚の家づくりストーリー/ふらんく・ふぁん・でる・かーん

あれもこれも欲しい、そして、格好いい家に住みたい世代に。 最終話

『ごろん』という物音で目が覚めた。僕は足元に転がっていたオレンジ色の装丁がされた本を手に取って、読んでいた辺りに見当をつけて紐栞を挟み込んだ。本はこの家に越して来てから読み始めたバルガス=リョサの『楽園への道』だった。これも学生時代に読んだ文学全集の中のひとつで、ゴーギャンの生涯を力強く書き切った名作だ。でも、いつも読んでいる途中で眠ってしまう。この家に越して来てから、そんなことが多くなった。僕は窓外へと目を向けた。外はすっかりと夜の帳が下りてしまっていた。朝から降り続いていた雪がやみ、本に集中し始めた頃からお陽様の光が家の中に差し込んで来た。ぽかぽかとしてきたところまでは覚えている。その辺りで眠ってしまったのだろう。前に住んでいたアパートなら、1週間で読み終わってしまうような本に、10日以上掛けているのに半分も進んでいない。それにしても、気持ちのいい昼寝だった。キャットウォークには、高い位置にある窓からお陽様の光が降り注いでくる。このスペースは読書にもいい空間なのだが、昼寝にも最適な空間なのだった。
僕はキャットウォークから這い出して、階段を下りた。ライブラリーで、手にしていた『楽園への道』をこれから読む本と読みかけの本専用の本棚へと戻した。そこには『水滸伝』全19巻が並んでいた。自然と頬が緩む。これに手をつける日が楽しみだった。
渚の姿はリビングになかった。僕はカーテンを摘んでカーポートを覗き見た。軽く雪が積もった僕のチンクエチェントの隣には、モデルチェンジをして発表されたばかりの渚の白いチンクエチェントが並んでいた。僕はリビングを通り抜けて、アルコーブの扉を少しだけ引いた。渚はそこで眠りに落ちていた。アルコーブの中もぽかぽかと暖かい。僕はソファからロロスツイードのブランケットを運んで、渚にそっと掛けてからアルコーブの扉を閉めた。渚は明日までに仕上げなければならないデザインがあると言っていた。今日は徹夜になるだろう。アルコーブはすっかり渚の仕事場になっていた。そして、アルコーブにもお陽様の光が降り注ぐ。きっと渚もその誘惑に負けたのだろう。
僕はキッチンへ入って、冷蔵庫の中から牛肉と玉ねぎを取り出した。玉ねぎを薄切りにしてから、ウーウェンパンをコンロの上に置いて温める。今日のメニューは牛丼にした。

「すっかり眠っちゃったみたい」
ダイニングで本を読み始めようとすると、アルコーブから渚が起き出して来た。僕の丼はすでに空になっていた。
「気持ち良さそうに眠っていたから起こさなかったよ」
渚はぼさぼさになった髪の毛を手櫛で撫でながら、ダイニングのベンチに座った。ダイニングのベンチには5種類の樹が使われていて、渚はウォールナットを選んだ。このところの渚のお気に入りだ。
「食べる?」
「ううん、まだいい」
僕はダイニングテーブルの上に本を伏せた。
「今晩は徹夜になりそうだね」
「そうね。昼間は駄目」
「お陽様の誘惑に負けるんだね」
僕の言葉に渚はあくびをしながら頷いた。
「お風呂にでも入ったら?」
「読書の邪魔?」
「僕もお陽様の誘惑に負けたんだよ」
「そう」
渚は言って小首を傾げた。
「もう1年になるのね」
渚はそう言いながらベンチから腰を上げた。この家に越してから、正確には1年と4ヶ月が経っていた。その辺、渚は結構ルーズだったりする。
「ご感想は?」
渚は僕の前に空になって置かれていた丼を手に取って、添えられていた箸をマイク代わりにして僕の口元に近づけた。
「いい感じ」
「同じく」
渚はマイク代わりの箸を自分の口元に寄せてにっこりと笑いながら言った。渚がキッチンへ回り込む姿を見送ってから、僕は再び本を開いた。本を読むペースは遅くなったけど、僕はこの家が気に入っていた。それは渚も同じ気持ちだろう。2行ほどに目を走らせると、僕は『楽園への道』に入り込んだ。

END

Produced by Kayano / Written by Ken Murayama



コンセプトハウス コンセプトハウス コンセプトハウス コンセプトハウス コンセプトハウス コンセプトハウス コンセプトハウス